
転職エージェントとの面談のあとに届いた求人票を開く。二十件。
業界は人材、不動産、広告、SaaS とばらけている。それなのに職種欄は、どれも法人営業かカスタマーサクセス。希望欄には別の職種を書いたはず。
自分の経歴が評価されていないのだろうか、と受け取ってしまう場面です。
ただ、この偏りは評価の結果というより、未経験を受け入れる求人そのものの分布から生まれています。この記事では、そのことについて解説していきます。
転職エージェントの担当者が面談後に提示してくる求人は、二つの条件が重なった部分から選ばれています。
一つ目は、いま実際に枠が空いていることです。企業のサイトに掲載されていても、充足していて実質的に動いていない求人は提示の対象になりません。
枠は常に同じ数だけあるわけではなく、退職・増員・組織変更によって出たり閉じたりします。同じ会社でも、二か月違えば出てくる職種が変わります。
面談の時期がたまたま採用計画の切り替わりと重なっただけ、ということも起こります。一度の提示だけで市場全体を判断する必要はありません。
二つ目は、その人の条件で応募できることです。ここに「未経験可」という条件を入れた瞬間に、母集団は大きく削られます。
問題は、削られ方が職種ごとに一様ではないことです。ある職種はほとんど残り、別の職種はほぼ消えます。残った側だけが並ぶので、束として見ると偏って見える。偏りの正体はここにあります。
また、未経験を受け入れやすい職種には、共通する条件があります。
仕事の進め方が標準化されていて、入社後に何をどの順で覚えるかが決まっている職種です。研修の期間と内容が固定できるため、受け入れ側が費用を計算できます。
逆に、業務の進め方が人によって違い、教える内容を都度組み立てる必要がある職種では、受け入れの判断が個別になります。「この人なら教えられる」という属人的な判断になるため、枠として常時開いている状態になりにくいのです。
担当した案件や顧客が個人に紐づく職種では、育成期間中でも進捗が見えます。「三か月目でどこまで来ているか」が判断できるため、採用側は未経験でもリスクを取れます。
チーム全体の成果として現れる職種では、この確認ができません。育っているのか止まっているのかが半年経っても分からないため、経験者を採るほうが読みやすい、という判断になります。
三つ目が効き方としては大きいものです。組織図を思い浮かべると分かりやすくなります。営業部門と事業企画部門とでは、在籍している人数の桁が違う会社が珍しくありません。
母数が違えば、年間に空く席の数も違ってきます。ここで置いた対比は規模の差を説明するための例であり、実際の構成は会社ごとに異なります。
この三条件を満たしやすいのが、営業、カスタマーサポート、販売、ITインフラの運用保守、施工管理といった職種です。
未経験可が出やすい職種 | 未経験可が出にくい職種 | |
|---|---|---|
教育コスト | 手順が標準化され、見積もれる | 案件ごとに教える内容が変わる |
成果の測り方 | 個人単位で進捗が見える | チーム単位で現れる |
在籍人数 | 多く、欠員が定期的に出る | 少なく、欠員が出にくい |
例 | 営業/販売/運用保守/施工管理 | 企画/経営管理/マーケティング |
企画、経営管理、マーケティングは、ポジションの数そのものが少なく、欠員が出る頻度も高くない傾向があります。数十人いる部門と数人の部門では、年間に動く席の数が違います。
そのため担当者に「企画職を希望」と伝えても、提示できる求人の数そのものが違います。応募者の評価だけが理由とは限らず、求人側の席数が効いていることがあります。
席が少ない職種には、もう一つの特徴があります。空いたときに社内から異動で埋められることが多い、という点です。
事業の内容を知っている人を動かすほうが早いため、外部募集に出る前に決まります。外に出てくる求人は、社内で埋められなかった分に限られます。
この構造のため、企画系の職種に未経験から直接入る求人は出にくくなります。実際に多いのは、営業や事務でその会社に入り、事業を理解したうえで社内異動する経路です。
この経路を取る場合、選ぶ基準が変わります。最初の職種そのものよりも、職種間の異動が実際に起きている会社かどうかが確認の対象になります。面談で「入社後に職種を変えた人がいるか」を聞くと、制度の有無ではなく運用の実態が分かります。
偏った求人票の束は、読み方を変えると情報になります。
その職種はいま採用枠が多い、つまり入口としては開いているということです。条件の緩さは、その職種の需要の反映でもあります。
同じ職種が並ぶこと自体は、担当者が手を抜いている証拠ではありません。条件に合う求人を集めた結果として、そこに集まっているという読み方ができます。
未経験枠がほとんど無いか、条件の伝え方が合っていないことが考えられます。後者であれば、担当者への伝え方を変えると出てくる求人が変わります。
× 企画職を希望しています。
○ 未経験可の企画職は枠が少ないと思っています。数年後に企画側へ移る可能性がある職種で、いま出せる求人はありますか。
現実的な状況と自分の希望を切り分けて伝えると、担当者の側も代替のルートを含めて出しやすくなります。
× 営業は向いていないと思います。
○ 個人向けの新規開拓は避けたいです。既存顧客への提案が中心の職種であれば検討します。
「営業」は範囲の広い言葉です。新規か既存か、法人か個人か、有形か無形かで、一日の過ごし方も評価のされ方も変わります。範囲を指定せずに外すと、条件に合う求人まで一緒に外れます。
求人の偏りの原因が席数ではない場合もあります。勤務地、年収、入社時期を同時に絞り込むと、母集団は職種を問わず小さくなります。
この場合に見直すのは職種ではなく、条件の優先順位のほうです。以下の三つのうち、どれが動かせるかを決めてから相談すると提示の幅が変わります。
最も母集団を削る条件です。本社所在地で絞るか、通勤時間で絞るかでも結果が変わります。出社頻度が週に何日かを含めて条件にすると、範囲を保ったまま絞り込めます。
未経験で職種を変える場合、入社時点の年収は下がることがあります。見るべきなのは入社時の金額ではなく、その会社の等級制度で何年後にどこまで上がる設計になっているかです。
提示額だけで比較すると、上がり方の違う二社が同じに見えます。初任給の差より、三年後の差のほうが大きくなることがあります。
急いでいるほど選択肢は減ります。企業側の採用スケジュールと合わない求人は、条件が合っていても対象から外れるためです。三か月動かせるかどうかで、見られる求人の数が変わります。
どれを固定し、どれを動かせるのかを決めてから担当者に伝えると、提示される求人の幅が変わります。
・提示される求人が偏るのは、未経験可の求人そのものが特定の職種に集中しているため
・集中する条件は、教育コストが見積もれること、成果が個人単位で測れること、在籍人数が多く欠員が定期的に出ること
・企画や経営管理は席数が少なく、空いても社内異動で埋まりやすい。外に出る求人は社内で埋まらなかった分に限られる
・偏った求人票は「いまどこに枠があるか」の情報として読める。一件も出ない職種は、枠が無いのか伝え方なのかを切り分ける
・原因が席数ではない場合もある。勤務地・年収・入社時期のどれを動かせるかを決めてから相談する