コラム

エンジニアにポートフォリオは必要か

求人の応募要項を下までたどると、歓迎条件の欄に「ポートフォリオがあれば尚可」と書かれている。業務では毎日コードを書いているのに、出せるものがすぐ手元にない。

作るべきかどうかは、職務経歴書で示せない部分があるかどうかで決まります。 そこを分けないまま作り始めると、時間をかけた割に選考が動かない結果になりやすい。

前提が混ざっている

【1】未経験者向けの情報が多い

ポートフォリオを勧める情報の多くは、実務経験のない人に向けて書かれています。職務経歴書に書ける開発の実績がない状態で、書けることを作るための手段として紹介されている。

実務経験があるエンジニアは、この前提の外にいます。示す材料はすでに持っていて、問題は材料の出し方のほうにある場合が多いです。

【2】補う対象が違う

未経験の人が補うのは「書ける経験がないこと」です。実務経験者が補うとすれば「経歴書に書けない領域があること」になります。

前者は全面を埋める作業で、後者は欠けている一部を埋める作業です。同じ提出物でも、必要な分量と作り込みの深さが変わります。

【3】判断の材料は三つ

以下では、作る価値が出る場合を三つに分けて扱います。移る先の領域、成果物の出せなさ、関心の方向の三つです。どれにも当てはまらない場合は、作らない判断が先に立ちます。

ポートフォリオが効く、三つの場合

場合

状況

領域の移動

業務で扱っていない技術の職種に応募する

成果物の非公開

常駐先の案件で、画面もコードも外に出せない

関心の証明

業務外で継続して触れていることを示したい

【1】扱っていない領域に移るとき

いまの業務がテスト工程中心で、開発工程の職種に応募する。担当が保守で、新規の設計に移りたい。こうした場合、経歴書には移り先の経験が書けません。

ここでの提出物は、実務の代わりではなく、移り先の作業を自分で進められることの手がかりになります。規模は小さくてかまいません。 見られるのは完成度より、判断が残っているかどうかです。

【2】成果物を出せないとき

常駐の案件では、担当した画面もコードも外部に出せないことがあります。経歴書に文章では書けても、動くものを示す手段がない。

この場合、業務と近い構成を自分で小さく作り直すと、説明の足場になります。案件そのものの情報は入れず、扱った技術の組み合わせだけを再現する形にします。

【3】関心の方向を示すとき

業務で扱う技術は、配属で決まる部分が大きい。業務外で継続して触れている対象がある場合、それは配属では説明できない情報になります。

ただしこれは歓迎条件の範囲であり、合否を動かす比重は大きくありません。ここだけを目的に作り始めるなら、優先度は下がります。

効かない作り方

【1】完成度にこだわる

画面の見た目を整える、機能を増やす、デプロイ先を凝る。作り込みの方向に時間をかけても、選考で見られる部分とは重なりません。

見られているのは、どこで何を選んだかです。凝った実装より、なぜその構成にしたかが残っているほうが、質問の足場になります。

読む側が確保できる時間も長くはありません。短い時間で追える形になっていなければ、作り込んだ部分は読まれないまま終わります。

【2】説明を機能一覧で記載する


× 「タスク管理アプリです。登録・編集・削除ができます。使用技術は以下のとおりです」

○ 「タスク管理アプリです。同時に複数の端末から編集される前提にしたため、更新の競合をどう扱うかを先に決めました。単純な上書きにしなかった理由は以下のとおりです」


前者は機能の一覧で、後者は制作したあなたの判断の記録です。読む側が確認したいのは、後者にあたる部分になります。

【3】とにかく数を増やす

小さいものを複数並べると、一つあたりの説明が薄くなります。同じ時間を使うなら、一つに絞って判断の記録を厚くするほうが選考では扱いやすい。

数は、扱える技術の幅を示す手段としては弱い。幅は経歴書の担当範囲で示すほうが早く伝わります。

経歴書で足りる範囲

【1】実務の判断は経歴書に書ける

実務で下した判断は、提出物がなくても文章で書けます。担当した工程、直面した制約、選んだ方法、選ばなかった方法。ここが埋まっていれば、材料としては足りている場合が多い。

書ける材料がないと感じるのは、担当が狭かったからとは限りません。制約のある中で選んだ場面を、業務では判断として数えないだけのことがあります。

【2】案件の情報に触れずに書く

扱った技術の組み合わせ、担当した工程、規模の大きさの程度。この粒度であれば、案件を特定せずに書けます。

書ける粒度の判断がつかない場合は、所属先の取り決めを先に確認してください。ここは会社ごとに扱いが異なります。

【3】先に直す場所

提出物を作る前に、経歴書の担当範囲の記述が薄くなっていないかを見るほうが早い。同じ時間を使うなら、書類で落ちている段階では経歴書の改稿が先になります。

SESの経歴書の書き方については、別の記事で整理しています(SESの職務経歴書が薄く見える理由)。

作らない判断の条件

【1】作らないほうが合理的な場合

いまの業務と近い領域の職種に応募していて、担当工程を経歴書に書けている。そのうえで書類は通っている。この状態なら、提出物を新たに作る必要は薄い。

面接で詰まっているなら、原因は提出物ではなく説明の組み立てにあります。作る時間を、過去の案件の棚卸しに充てるほうが効きます。

【2】作るなら範囲と期限を決める

作ると決めた場合、対象の技術と期限を先に決めてから着手します。決めずに始めると、機能の追加が続いて応募が止まる。

応募を止めてまで作り込む価値があるのは、移り先の領域が現職と離れている場合に限られます。それ以外では、応募と並行できる範囲に収めるほうが判断として合います。

まとめ

・ポートフォリオを勧める情報の多くは実務未経験者向けで、実務経験者は前提が異なる

・作る価値が出るのは「扱っていない領域に移る」「成果物を外に出せない」「業務外の関心を示す」の三つの場合

・見られるのは完成度や数ではなく、どこで何を選んだかの記録

・実務の判断は提出物がなくても経歴書に書ける。書類で落ちている段階では経歴書の改稿が先

・作らない判断も成立する。作る場合は対象と期限を決め、応募を止めない範囲に収める

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