コラム

年収が頭打ちになる構造

評価は悪くない。仕事も任されている。それなのに、年収がここ数年ほとんど変わっていない。

そう感じている場合、原因は個人の評価ではなく、賃金が決まる仕組みの側にあることがあります。

多くの企業では、役割や等級ごとに支払える金額の範囲があらかじめ決まっているのです。

この記事では、その構造を整理します。

昇給が鈍る時期

年収の伸び方は、キャリアを通じて一定ではありません。一般的には、次のような推移をたどります。

【20代】

基本給の上昇と、等級の昇格が重なりやすい時期です。

毎年の昇給が実感しやすく、伸び率も比較的高くなります。

【30代前半】

役割が定まり、担当領域が広がる時期です。

昇格があれば大きく上がり、なければ横ばいに近づきます。

【30代後半以降】

ここで多くの人が変化を感じます。評価が下がったわけでもないのに、昇給幅が小さくなっていく。

理由は、担当している等級の上限に近づいているからです。つまり、「これ以上は制度上出せない」という天井に到達している状態です。

この段階で年収を上げる方法は、限られてきます。

・上の等級に昇格する

・役職に就く

・賃金水準そのものが高い場所に移る

逆に言えば、これ以外の方法では、大きな変化が起きにくい構造になっています。

等級と賃金レンジ

多くの企業では、社員を等級で区分しています。呼び方は企業によって異なりますが、「グレード」「ランク」「職能等級」などと呼ばれるものです。

そして、等級ごとに賃金の範囲が設定されています。

これを賃金レンジと呼びます。


 等級5     ├────────────┤

 等級4   ├────────────┤

 等級3 ├────────────┤

 等級2 ├──────────┤

                  → 年収


ここで押さえておきたい点が2つあります。

【1】レンジには上限がある

同じ等級にいる限り、どれだけ評価が高くても、上限を超えることはできません。高評価が続いた場合、上限に近づくスピードが速くなるだけです。

【2】等級が上がらなければ、レンジも変わらない

昇給と昇格は別のものです。昇給は同じレンジ内での移動。昇格はレンジそのものの変更です。年収を大きく変えるのは後者です。

そして、上の等級には定員がある企業も少なくありません。

その場合、「評価が高いこと」と「昇格できること」は同じではなくなります。ポストが空かなければ、昇格の機会は訪れないためです。

ここが、多くの人が違和感を持つ部分です。

努力しても、評価されても、制度上の枠が動かなければ年収は変わらない。これは、能力の問題ではありません。

業界と企業規模の差

もうひとつ、レンジそのものの高さが所属する場所によって異なるという点があります。

同じ職種、同じ役割でも、業界や企業規模によって賃金水準には差があります。差が生まれる背景には、いくつかの要因があります。

・その事業が生み出す粗利の大きさ

・人件費が原価に占める割合

・同じ職種を採用する際の相場

たとえば、労働集約的な事業では、人件費が直接コストに響くため、賃金レンジを上げにくくなります。

一方、利益率の高い事業では、人材の確保が事業の成否に直結するため、相対的に高い水準が設定されやすくなります。

ここで重要なのは、「今いる場所のレンジが、市場全体の水準とは限らない」ということです。

社内での位置づけと、市場での位置づけは別のものです。

社内評価と市場評価

この2つは、しばしばズレます。

なぜズレるのか。評価している対象が違うからです。

【社内評価が見ているもの】

・その組織の中での相対的な貢献度

・社内の業務プロセスへの習熟

・既存の人間関係の中での動きやすさ

これらは、その会社の中でのみ意味を持つ要素を含みます。

【市場評価が見ているもの】

・他社でも再現できる能力かどうか

・どの規模、どの領域で通用するか

・現在の採用市場での需要

つまり、社内で高く評価されていても、その理由が「その組織に最適化されていること」である場合、市場での評価は平均的になることがあります。

逆のケースもあります。社内では平均的な評価でも、担当してきた領域が市場で不足していれば、高く評価されることがあります。

どちらであるかは、社内にいる限り分かりません。評価するのは常に相手側であり、自分では測れないためです。

構造を変える3つの道

年収の頭打ちに対して、選択肢は3つあります。転職だけが答えではありません。

【1】社内で等級を上げる

最も確実性が高い場合があります。

<確認すべきこと>

・昇格の要件は明示されているか

・上の等級にポストの空きはあるか

・要件を満たすまでにどれくらいかかるか

要件が不明確、またはポストが埋まっている場合は、時間だけが過ぎる可能性があります。

【2】社内で役割を変える

等級が上がらなくても、職種転換や部門異動でレンジが変わる場合があります。特に、事業の中核に近い部門へ移ることで評価軸が変わることがあります。

【3】賃金水準の異なる場所に移る

業界や企業規模を変えることで、レンジそのものが変わります。ただし、これは年収だけの話ではありません。働き方、裁量、事業の安定性も同時に変わります。

この3つを比較するには、それぞれの選択肢がどうなっているかを知る必要があります。

1と2は社内で確認できます。3だけは、外に出ないと分かりません。

自分の水準を確かめる

市場での評価を知る方法は、実質的に限られています。

自分では測れないため、評価する側に見てもらう必要があります。現実的な手段は2つです。

【スカウト型サービスに経歴を登録する】

経歴を登録し、企業やヘッドハンターからの連絡の有無と内容を見る方法です。どういう業界から、どの水準の提示が来るか。あるいは、来ないか。これ自体が市場からの反応になります。

応募や面談をせず、反応を見るだけでも情報になります。

【転職エージェントに評価を聞く】

経歴を確認したうえで、現在の市場でどのあたりに位置づけられるかを聞く方法です。複数社に相談すると、評価が一致するのか分かれるのかが見えてきます。

どちらも、転職を前提とする必要はありません。確認した結果、社内で昇格を目指すという判断になっても、それは十分に合理的な選択です。

むしろ、比較したうえで残る場合のほうが、その後の判断に納得感を持ちやすくなります。

知らないまま数年が過ぎることだけが、選択肢を減らしていきます。

まとめ

・昇給の鈍化は、等級の上限に近づいたことによる場合が多い

・昇給と昇格は別のもの。年収を変えるのは後者

・賃金レンジの高さは、業界と企業規模によって異なる

・社内評価と市場評価は、見ている対象が違うためズレる

・選択肢は3つ。昇格・役割変更・移動のいずれか

・市場での評価は自分では測れない。相手側に見てもらう必要がある